長らく動きが停滞していた、中区錦2丁目の広小路通り沿いにて計画中の「旧大和生命ビル」跡地の再開発計画について、7月7日に各紙に続報が掲載されました。計画は2008年3月に浮上し、当初から三菱系のオフィスと商業施設で構成される高層複合ビルになる予定でした。名駅のシンボル大名古屋ビルの建替えに伴い、その入居テナントの一時的な受け皿になるのでは、との噂も立っていましたが、真相は「旧大和生命ビル」跡地の向かいに建つ「三菱東京UFJ銀行名古屋ビル(旧東海銀行本店)」の再開発に伴い、その本部機能を一時的に移転させるための計画となっていたようです。
なお、再開発予定地の一角には※旧名古屋銀行本店(上写真・1926年竣工・名古屋市より都市景観重要建築物に指定)の建物があり、市と三菱地所との協議の結果、建物は保存される方向に落ち着いています。同建物を所有していた三菱東京UFJ銀行は、今回の再開発計画に伴い土地や建物を三菱地所に売却したため、中で営業していた貨幣資料館は2009年に東区赤塚町へ移転しています。※旧名古屋銀行は旧東海銀行の前身で、現名古屋銀行とは無関係。
1~2階には店舗を誘致し、3~21階が三菱UFJグループの仮移転先となる予定です。完成は2018年をメドとしています。
旧大和生命ビル跡地。この土地も三菱東京UFJ銀行が所有していました。大和生命ビルの前身は日本徴兵保険名古屋支部が入る「名古屋日本徴兵館」(1939年竣工)という名前のビルで、2004年頃に解体されています。
旧大和生命ビルの写真が、こちらのサイトで紹介されています。(管理人:shortwood様)
旧大和生命ビル跡地内にあった、日産レンタカーの営業所を解体しているようでした。
早速現地に「建築計画の概要」が掲示されています。一般的に大規模な建物を建設する際には、その建物の規模が一定基準を超えた場合、計画段階環境アセスメント制度に伴う環境影響評価(環境アセス)の実施が義務付けられています。名古屋市の場合、建物の高さが100m以上かつ延床面積が5万平米以上の物件に対して、環境アセスの実施を必須としています。ところが事業者はアセスの実施による計画進行の遅れを懸念し、高さ・延床面積のいずれか、もしくは両方を上記数値内に抑える傾向にあります。(そもそも本末転倒のような気がしますが…)
この基準は都市によってバラつきがあり、東京都の場合は高さ100m以上かつ延床面積10万平米以上(ただし都内特定地域内、いわゆる臨海副都心や丸の内・西新宿など、ビル群を形成している各地域内では180m以上、延床面積15万平米以上まで緩和)、大阪市の場合は高さ150m以上かつ延床面積10万平米以上となっています。東京都の場合、緩和策を設けた理由は立地条件への配慮や技術の進歩、制定時と現在の階高などを比較した上での総合的な判断としています。名古屋市の場合は、都心部を除いて「高度地区」という制度を設けて地域ごとに建物の高さを制限していますが、それに加えてエリアに関わらず現行のアセス基準を一律で設けているため、効率的な再開発が出来ていないように思えます。少なくとも名駅や栄といった都心部では、柔軟にアセスの緩和措置を取ってもよいのではと思いますが、残念ながらそのような動きは今のところみられません。非常に勿体無い話です。
A敷地は旧大和生命ビル跡地を中心とした再開発予定地。B敷地は保存が決定している旧名古屋銀行本店の敷地です。この図で注目すべき点は、A敷地がB敷地の北側まで回り込んでいる点です。すなわち、旧名古屋銀行ビルの北隣にある建物(1棟のみ)は再開発の対象となっています。
さて、本命はこちらの「三菱東京UFJ銀行名古屋ビル」(1961年竣工)。旧東海銀行本店→旧UFJ銀行本店を経て、現在に至ります。今回の大和生命ビル跡地の件では、前回の報道にはなかった「積水ハウス」の存在が表面化しており、このUFJ名古屋ビルの建て替えにも参画する可能性は大いにありそうです。7月10日付の建通新聞によると、先の新ビルが完成する2018年~2027年までに改築することをメドとしています。同ビルは耐震補強も実施済みで建築物として良好な状態を維持しているとのことですが、三菱東京UFJ銀行が栄一帯の活性化に向けて建替えを検討することになりました。年内にも再開発の方向性が固まるようです。
UFJ名古屋ビルと同じ区画の南東角にある「中央広小路ビル」。竣工年はなんと1960年で、UFJ名古屋ビルより先輩です。その奥にチラっと見えるクリーム色の「アスタービル」は、1989年竣工。その他、タワーパーキングや数棟の雑居ビルがあります。UFJ名古屋ビル単独建替えの場合、敷地面積は約4,900平米でL字型の敷地。区画全体なら約7,300平米になりますが、周辺の再開発動向を見てもなかなか難しいでしょう。
※写真はすべて2015年7月11日撮影。