一宮市は、市の中心部に位置するJR尾張一宮駅・名鉄一宮駅周辺の容積率を、2018年3月より大幅に緩和することとなりました。名古屋駅まで最短10分(JR快速利用)という好立地を生かし、駅前におけるマンションや商業ビルの建設を促します。2027年のリニア中央新幹線の開業を見据え、東京が通勤圏になった際の”ベットタウン”を目指す方針です。
緩和されるエリアは?
出典 Google mapより(市公表・2018年3月より施行予定)
赤枠内がすでに容積率600%に指定されている地区、黄枠内は現行400%ですが、規制緩和によって600%まで引き上げられる地区です。600%地区は、これまで東口のごく狭い範囲に限られていましたが、規制緩和によってアーケード街や市役所を囲むように大幅に拡大されるだけでなく、新たに西口の一部エリアでも指定される予定です。これにより、600%地区の面積は緩和前の約6倍の24ヘクタールにまで拡大し、名古屋市の608ヘクタールに次いで県下2番目の規模となります。
建築可能な建物の規模(延べ床面積)の上限が約1.5倍にまで緩和されるほか、緩和を受けられる土地の広さを500平方メートル以上とすることで、地区内へ高層マンションや大型商業ビルの立地を促すと同時に、細切れになっている土地の集約化を図ります。
容積率を緩和する地区は新たに防火地域に指定し、建物の耐火構造を義務付けます。これにより、密集した建物が火災で延焼し、広範囲が焼失するのを防ぎます。
一宮駅前の現状(日曜日の東口)
JR尾張一宮駅ビル(i-ビル)
2012年11月に建て替えられた一宮駅東口の新駅ビル。好立地を生かしイベントにも活用できる「シビックテラス」や、市立図書館を誘致するなど、駅構内にシンボリックな空間を整備することで、通過地点だった駅そのものが目的地となり、建て替え前と比べ賑わい創出に大きく結び付いています。
駅ビル1階は既存のコンコースと一体化しており、東西自由通路の一角を形成。
シビックテラス
半屋外にあたる約1,100平方メートルの吹き抜け広場。東口からエスカレーターでダイレクトにアクセス可能。5階にある市立図書館までの動線の中継地点としての役割も担っています。
賑わいはテラスやエスカレーターを通じて、コンコースや東口の外にまで伝わり、駅を訪れる人々を自然と上階へ惹き寄せます。普段はオープンカフェにもなっており、図書館を利用する学生や子育て世代、高齢者などで休日も駅ビルに滞在する人が大幅に増加したことが、最も特筆すべき点です。
しかし、駅ビルの賑わいと駅前の賑わいは必ずしもリンクしておらず、中心市街地の空洞化問題は、依然として一宮の街に横たわったまま。
東口より中心市街地方面
規制緩和前から容積率600%地区に指定されているあたり。右の千歳通り沿いには高層建築物も目立つ。
銀座通り
駅東口から西へ伸び、市の中心的商店街である「本町商店街」を結ぶ通り。毎年開催される「一宮七夕祭り」の期間中ともなれば、商店街とともにメイン会場となり多くの人出があるものの、普段見せる表情は38万都市の駅前としてはかなり物寂しい。
銀座通りの沿道は2階建て前後の低層建築物が目立ち、あまり高度的に利用されていません。しかし東口を出た人の流れを見ると、ここがメイン通りと言ってもあながち間違いはでない印象。
駅東口より住宅街方向
沿道にはマンションや業務ビル、家屋などが混在。手前が容積率600%地区で、奥が400%地区。奥に向かうほど建物が低くなっている。
伝馬通り
オフィスビルや商業ビルが密集。商工会議所があった場所には真新しいマンションに。
伝馬3丁目
かつて当地に本社を構えた総合スーパー「グランドタマコシ」は会社ごと消滅。当地で創業し、一時店舗単位面積当たりの売り上げが日本一となった”総合食品のデパート”「カネスエ」は、地域密着型スーパーとして現在は郊外出店にシフト。名鉄丸栄百貨店は名鉄百貨店一宮店として駅の反対側に移転。岐阜市同様、中心市街地からの大型商業施設の撤退が相次ぎました。
かつての繁栄を偲ぶ片持ちアーケードも、傍らほとんど空き地になっているところも。このあたりも、将来的には全部マンションに取って代わるかもしれません。
旧カネスエ本町店跡地
個人的な考えとして、駅前にマンションが増えるだけで中心市街地が繁栄するかは難しいところです。街の中心部に住む人々が商店街を素通りし、駅から電車に乗り、名古屋へ買い物に出る。あるいは自宅から車で直接イオンモールに出かけたのでは、駅前の定住人口を増やしてもあまり意味がありません。新たな駅ビルも開業し、駅の中に入ってしまえば、日常生活に必要なお店はほぼ揃っています。したがって、最終的には話題性のあるテナントを誘致し、商店街の魅力を高める以外に、かつての賑わいを取り戻す道はないような気がします。
まずは駅前人口を増やすための受け皿として、容積率の規制緩和が行われようとしていますが、目標年次を2020年に定めた市のマスタープランも未だに具体性に欠け、中心市街地再生に向けたビジョンが今一つ見えてこないのが、地元住民にとっても不安要素であるようです。最も事前に行われた市民アンケートでは、行政がまず真っ先に取り組むべき事項として「空き店舗の有効活用」を選んだ人が最も多く32%。これに対して「マンション等の住宅立地を促進し、まちなかの人口を増やす」を選んだ人はわずか2%。既に行政の施策と市民の意向との間にズレが生じてしまっています。
本町アーケード
旧グランドタマコシ前から真清田神社にかけて続くアーケード街。
撮影時(日曜昼間)にアーケード入口から真清田神社にかけての区間のみでざっと集計してみました。店舗数は全部で110。うち空き地・空き店舗が約2割と思ったほどではありませんでした。繊維業で栄えた街だけあってブティックが多く、全19(うち日曜営業13)。ほか布団や仏具、玩具、雑貨などの物販店が31(うち日曜営業29)。反面、日曜昼間に営業している飲食店がかなり少なく、全16のうち営業していたのはわずか7店舗のみでした。
全体の印象としては高齢者向けのテナントがほとんどを占めており、その要因として商店街そのものの高齢化が背景にあります。潰れているお店も2階部分には人が住み続けているところが多く、時々本町商店街へ出店の引き合いがあっても、そう簡単に「1階を貸します」とはいかないようです。これは当商店街に限らず、全国の商店街における課題でもあります。
商店街を訪れる人も高齢の方が多く見受けられ、かなりの台数の自転車が止まっています。中には車を運転できずに、自転車で来る方もいることでしょう。
利用者数の多い一宮駅は、通勤・通学客が自宅から駅まで自転車で来るケース、あるいは中心部の自宅から近隣の一宮高校・一宮商業高校などへ自転車で通学する生徒なども見られます。案内を見ると、市営の無料駐輪場は、駅至近の高架下にしかありませんが、本町アーケードは周辺道路で唯一、昼夜の駐輪が可能となっています。
つまり会社勤め・学校通いの人でも、朝の通勤通学時間帯に自転車を停めることはできませんが、仕事帰り・学校帰りにアーケード内に停めて店に寄ることができます。これは結構なアドバンテージだと思うのですが、店がターゲットとする層に偏りがあるのが問題です。
中心部では、i-ビルや真清田神社とも連携し、定期的にコスプレイベントも行われるようになりました。商店街には撮影スタジオなどもあり、イベントの無い日でも商店街へ撮影に来ている若い人たちをよく見かけます。憩いの場も兼ねた撮影向け修景施設の整備、あるいは古さを生かしたお洒落で面白いお店が出店すれば、口コミでコスプレイヤーから一般の人へも評判が広まり、さらに商店街を訪れる人が増えるかもしれません。容積率の緩和に止まらない、これまで高齢化の流れに逆らえなかった中心部を変えるための施策は、色々ありそうです。
外部リンク リニア通勤「起爆剤に」 一宮駅周辺、容積率大幅緩和へ(2017年9月14日 中日新聞)
※すべて2017年9月24日撮影。