JR尾張一宮駅の新しい駅ビル「i-ビル」が、先月1日でオープン1周年を迎えました。
かつての駅ビルは、1952年に民衆駅として完成した鉄筋コンクリート3階建ての年季の入った建物でしたが、2010年秋ごろから建替え工事が始まり、現在は広々とした吹き抜け空間を擁する立派な駅ビルに生まれ変わっています。
駅ビルの建て替えを巡っては、当初ホテルやシネマコンプレックスが入る地上15階建ての新ビル構想がありました。ところが、土地を所有するJR東海は「民間に依存するのは危険」として、当時の計画を持ちかけた市長に対して、首を縦に振りませんでした。それが2006年下半期の出来事です。その後、別棟に大学キャンパスを誘致する計画にも暗雲が立ち込みはじめ、経済情勢の悪化に伴い大学法人側が進出を断念するなど、駅ビル計画の大幅な見直しを余儀なくされました。
ホテルやシネコンの壮大な計画に代わって新たな計画として持ち上がったのが、不便な立地で老朽化した旧図書館に代わる新しい図書館を駅ビルに誘致し、街の賑わい創出につなげることでした。不況に突入したことで駅ビル建設への反対の声も目立つようになりましたが、最終的な市の判断は結果的に功を奏し、周辺施設に様々な波及効果をもたらすこととなりました。今思えば、当時のJRの助言は、実に堅実的な在名企業らしい先を見据えた判断だったのかもしれません。(別棟建設予定地の今後の活用法は未定です。)
【i-ビル 概要】
階数 地上7階
高さ 不明
敷地面積 4,339.67㎡
建築面積 3,855.49㎡
延床面積 21,406.98㎡
竣工年月 2012年9月
供用開始 2012年11月1日
建設地 愛知県一宮市栄3丁目1番2号
建築主 一宮市
設計 株式会社山下設計
i-ビルの大きな特徴は、何と言っても2~5階の巨大な吹き抜けスペース「シビックテラス」です。冬シーズンはイルミネーションの装飾も行われています。また、外観のデザインは「繊維の街」を象徴する織物の糸の網目をモチーフとしています。
「i-ビル」ロゴ。愛称の由来は、~「i」は一宮市の頭文字であり、「愛」「私(I)」という意味があり、情報(インフォメーション)の発信基地との連想もできます。みんなに愛され親しまれる空間になってほしいとの思いが込められています。~だそうです。(i-ビルホームページより)
中へ入ると、一宮市のマスコットキャラ「いちみん」が出迎えてくれます。市内にある「ツインアーチ138」をモチーフにしているそうです。最近は全国的にゆるキャラが増えすぎてえらいことになっていますが、個人的には「ひこにゃん」と「いちみん」は愛嬌があって好きです。
館内案内板にも液晶ディスプレイによる映像が常時流れており、最新の設備が整っています。
駅東口の真新しい玄関。
1階のコンコースには2箇所に街頭ビジョンが設置されており、音声も流れます。
元々JRの高架下には、JR東海の子会社「名古屋ステーション開発」が運営するエキナカ「ASTY」がありますが、今回の新駅ビルの1階にも拡張オープンしました。
成城石井は、県内では名古屋市以外で初の進出となりました。i-ビルのASTYには新たに9店舗が開業し、ASTY一宮の店舗数は合わせて21店舗となりました。特に新規9店舗は売上額が当初目標を10%上回ったほか、既存14店舗も毎月の来店者数が前年同期比10%増の傾向が続いています。
東口玄関付近には、市内の観光案内所も設置されました。
5階~7階にオープンした「一宮市立中央図書館」。午後9時まで開館しているので、学校帰りや会社帰りにも立ち寄ることができます。従来の旧図書館に比べ一日の利用者数は3,700人と倍以上に増加しました。電車で近隣市町村から利用しに来る人もいるようです。
シビックテラス。エスカレータ付近には休憩所が設置されており、もう半分はイベントスペースになっています。ビル内には図書館利用者向けの学習室がありますが、予想を超える人気のためスペースが足りず、土日の日中はこちらの休憩所も中高校生や大学生でほぼ埋まっています。また、イベントスペースはコスプレのイベントに使用されることも多く、企画会社からの使用申し込みが増えているほか、岐阜・三重・静岡など県外からも人気の会場として注目を集めているそうです。これまでの旧駅ビル時代には若い人達が集う場所が無かったため、賑わい創出の場としては大成功を収めていると言っていいでしょう。また、市内で開催される「一宮七夕祭り」と「世界コスプレサミット」がコラボしたイベントが大々的に開催されるようになり、かつての繊維の街としての輝きを取り戻すべく、新たなコスチュームタウン構想に則った取り込みも進められています。
2階フロアはJR尾張一宮駅ホームと同じ高さにあり、ホーム側の壁をガラス張りにして一体感を演出しています。
シビックテラスから見た東口ロータリー。
一宮駅は、JR尾張一宮駅にJR東海道線が、名鉄一宮駅には名鉄名古屋本線と尾西線が乗り入れています。
双方のホームや改札口が隣接する総合駅となっており、尾張西部の玄関口として多くの通勤通学客に利用されています。これまでは朝夕に限った通過点としてのイメージが強かった同駅ですが、i-ビル開業後は日中もかなり賑わいを増すようになりました。
名鉄一宮駅(西口)側の駅ビルには名鉄百貨店一宮店が入居していますが、i-ビル開業後は入店者数が10%増加しました。また、新ビル5階に子育て支援センターが開館したことから30~40代の子連れ世代も増え、これを取り込むべく今年4月に地下フロアの改装を実施、食品雑貨類を2.5倍に増やしたほか、4階には北欧ブランドの台所雑貨を充実させるなどテコ入れを行っています。
さて、再びi-ビルに戻って最上階の7階まで上がってきました。
7階にはセミナー・会議用の「シビックホール」と、パティオ(屋上庭園)があります。
7階からの眺め。奥に見えるクレーン付きの大きなビルは建設中の一宮市新庁舎。その手前には旧来からの「本町商店街」のアーケードが見えます。愛知の場合、一宮に限ったことではないですが、賑わいの動線がどうしても駅の中に限定されてしまいがちです。商店街のほうは波及効果が芳しくないようですが、個々に見ても店のコンセプトや売り方の工夫は必要だと思います。外部効果に期待して今までと同じやり方で商店街の復活をかけるのはかなり難しいでしょう。ただ、一度商店街が衰退してからは駅からアーケード街までの人の動線が完全に途切れてしまっており、これではアーケードを歩く人は永遠に増えません。時代の変化を見据えた上で商店街の今後の在り方、駅ビルと商店街の共存共栄を真剣に考えていかなければなりませんね。
最後は横に長い巨大駅舎をパチリ。
駅の西口では、マンション建設も盛んに行われています。
【参考】i-ビル公式サイト
15年前の一宮駅前を撮影した貴重な写真が掲載されているサイトです。
磯兼様運営サイト
※写真はすべて2013年11月17日撮影。