東京駅には、大きく「丸の内口」「八重洲口」の2つの顔があります。「丸の内」は三菱グループが旧三菱財閥時代から根を下ろし、一大オフィス街を築いてきた、いわば「三菱のお膝元」ですが、丸の内一帯で急速に進む高層化の中、近年では「丸ビル(2002年竣工)」・「新丸ビル(2007年竣工)」に代表されるように、街の”顔”のみならず、1つの”ブランド”ともいえる次世代の「丸の内」を造り上げました。一方、「八重洲口」では、近隣の日本橋を発祥とする三井不動産が、日本橋地区初の大型再開発である「コレド日本橋(2004年竣工)」を皮切りに、八重洲口に直結する形でJR東日本と共同で「グラントウキョウ(2007年竣工)」を開業。丸の内に比べ華やかさに欠けていた八重洲口の印象を大きく変えるなど、話題を呼びました。
八重洲口より日本橋方面を望む(2016年8月11日撮影)
以降、八重洲口では広島発祥のデベロッパーが再開発した「鉃鋼ビルディング(2015年竣工)」など、八重洲口から北、日本橋にかけてのエリアでは、少しずつ再開発が行われていますが、駅から見渡せる範囲内にはまだまだ古いビルが多く残り、新幹線・高速バスのりばに近い首都の玄関口として、丸の内口に比べかなり遅れをとっているのが現状です。
出典 「八重洲二丁目北地区第一種市街地再開発事業」計画概要について(2015年4月10日 三井不動産ニュースリリース)
東京駅八重洲口と日本橋は、エリア的には一体となっている。
八重洲口の目の前に高さ240mの巨大ビルを建設
八重洲二丁目地区(2017年12月31日撮影)
そこで三井不動産が新たに再開発に乗り出したのが、八重洲口駅前広場の目と鼻の先にある「八重洲二丁目地区」です。金融系のビルが目立つほか、2017年までは戦後の復興小学校として1928年に建てられた「中央区立城東小学校」がありました。三井不は、三井グループの発祥の地である「日本橋再生計画」を進めており、新幹線口の目の前である当地での再開発も連携して行うことで、三菱地所など他のデベロッパーに対抗し、国内外に向けて競争力を広くアピールする狙いがあると思われます。
再開発エリアの範囲は?
再開発が計画されているエリアはおよそ1.3ヘクタール。これまで細分化していた4つの区画を1つの地区として集約・再編します。地図中の「ヤンマー東京ビル」は単独で解体中。(後述)「八重洲Kビル(新生銀行東京支店)」「スーパーホテルlohas東京駅八重洲口」は再開発計画の対象外となっているため、北側の区画形状がいびつになっています。
なんと総勢20棟ものビルが解体の対象に。これだけズラッと列挙されていると圧巻です。プロジェクトの巨大さが実感できます。
区画を分けていた3本の区道を廃止!
再開発による区画の集約化に伴い、赤の網掛けで記された「区道432号」「区道533号」「区道536号」の3つの区道が廃止となりました。再開発後は、区画内を通る代替の歩行者通路が整備される予定(後述)です。2018年5月6日現在、右端の八重洲通り側の一部のビルを除いてほとんどが解体工事に着手されています。
出典 「八重洲二丁目北地区第一種市街地再開発事業」計画概要について(三井不動産ニュースリリース)
再開発後の八重洲二丁目北地区(配置図)
八重洲二丁目北地区再開発では、旧来の区画を集約化した上で「A-1街区」と「A-2街区」の2つの区画に再配分されます。高さ240mの超高層ビルが建設されるのは「A-1街区」です。再開発後は、新たに整備される歩行者通路により、区画内を回遊できるようになります。外堀通りを挟んで対岸の東京駅八重洲口へは、既存の横断歩道を利用することになるようです。ここであえて横断デッキを設置しないのは、2階レベルに改札が無い(1階か地下)上、八重洲口の新たなシンボルとなった「グランルーフ」の景観を損ねることになるためと思われます。
グランルーフ…帆を模した屋根が特徴的な東京駅八重洲口の新たなランドマーク。レストランやカフェを中心に魅力的な店舗が集まるエリア。
具体的にどんな建物ができるの?
出典 「八重洲二丁目北地区第一種市街地再開発事業」計画概要について(三井不動産ニュースリリース)
八重洲二丁目北地区 イメージパース
上段2枚は東京駅から見たアングル、下段は新ビル裏側のあおぎり通りと柳通りの交差点から見たアングルです。断面図によれば、下段の低層部が、元々当地にあった「中央区立城東小学校」に代わる新しい区立小学校。海外ホテルブランドの入る超高層ビルの一角に小学校とは、凄い時代になったものです。以下に建物スペックをまとめました。
建物詳細
A-1街区:地上45階、地下4階 (高さ約240m)、延べ28万7,200㎡
A-2街区:地上7階、地下4階(高さ約41m)、延べ5,860㎡
A-1街区:ホテル(ブルガリ ホテル 東京)・オフィス・区立小学校・商業施設・バスターミナル
A-2街区:オフィス・商業施設・駐車場・駐輪場
竣工予定:2022年8月下旬
当初計画と比べて、A-1街区は高さ約245mから縮小、A-2街区は地上10階・高さ50mから縮小しています。
「A街区」では計2棟のビルが建設されます。またこれらとは別に、「ヤンマー東京ビル」(後述)の建っている土地も単独で「B街区」として再開発されます。竣工時期はA街区と同じ2022年夏頃の予定です。都市計画素案の段階では、地上14階・地下4階建て延べ2万2,000㎡の建物を建設するとしていますが、この数値は変動的と思われます。再開発のポイントは以下。
ブルガリ ホテルズ&リゾーツが2022年末に日本初進出へ!
記事タイトルのとおり、イタリアのホテルブランド「ブルガリ ホテルズ&リゾーツ」が日本で初めてこの八重洲の地に進出することが決定しました。同ホテルは、2018年に上海、2020年にパリ、モスクワへの進出も決定しており、東京への出店は世界で9番目となります。
出典 東京駅至近の立地 ラグジュアリーな空間が誕生 2022年 「ブルガリ ホテル 東京」開業合意(三井不動産ニュースリリース)
「ブルガリ」といえば、香水などのブランドでおなじみですが、そのホテルブランドはザ・リッツ・カールトンなどと共に、マリオットインターナショナル系列の最高級ホテルに位置づけられています。ザ・リッツ・カールトンブランドでは、日本では東京・大阪・京都・沖縄の4か所に進出しています。他国のブルガリ ホテル同様、内装には著名なイタリアのデザイナーを起用し、屋外テラスを併設したイタリアンレストラン「イル・リストランテ」や、最先端のフィットネスジムや屋内プールを備えた約1,500平方メートルの「ブルガリ・スパ」が贅沢なひとときを演出します。
解体前のA-1街区の様子(2017年12月31日)
旧ダイヤ八重洲口ビル・住友生命八重洲ビル(中央)
中央のビルは一見1つのビルに見えますが、概ね左半分が「ダイヤ八重洲口ビル」、右半分が「住友生命八重洲ビル」となっていました。竣工は1966年。このビルのすぐ裏には城東小学校跡地があります。
外堀通りと旧住友信託銀行八重洲ビル(右手前)
「住友生命八重洲ビル」から区道536号を挟んで南側にあるこちらも住友系の金融ビル。撮影時は引っ越し作業か、何かを搬出しているようでした。A-1街区の南端はこの「住友信託銀行八重洲ビル」までが範囲となり、区道536号は廃道となります。
旧ダイヤ八重洲口ビルと区道533号(左)
一方、A-1街区の北端はこの「ダイヤ八重洲口ビル」まで。「ヤンマー東京ビル」との間に挟まれた区道533号も廃道となります。
2017年末の段階で、入居テナントは近隣に移転しているものがほとんどでした。
旧住友生命八重洲ビルと区道536号(右)
住友信託銀行八重洲ビルとの間から、裏側へ回ってみます。
区道536号(廃道前)を行く(2017年12月31日)
ちょっと暗くて分かりづらいですが、こちらの入口にも「住友生命八重洲ビル」の表記が。
旧中央区立城東小学校跡地
周囲にこれだけオフィスビルが立ち並ぶ小学校もなかなか見られませんが、再開発により周囲もすべて解体される予定です。
旧中央区立城東小学校跡地
再開発のため、2017年9月に閉鎖された小学校。1929年に関東大震災(1923年)の復興小学校として建設され、鉄筋コンクリート3階建ての校舎が特徴的でした。撮影時、校舎はすでに跡形もありませんでした。
区道536号沿いには、まだ営業している店舗がありました。
同じビルに入居していた他の店舗は、近隣地に移転、もしくは廃業に。
区道536号(左)・区道432号(右)
小学校跡地の一角に、京橋消防団第二分団本部の建屋。東京駅の目の前でオフィス街を管轄していることから、構成団員は地元住民より企業にお勤めの方々がほとんどだそうです。公式サイトを見る限り、消防団自体は現在も存続しており、おそらく別の場所に移転しているのかもしれません。
区道432号(廃道前)を行く(2017年12月31日)
八重洲口から徒歩2~3分の場所ですが、完全に下町の雰囲気が漂っていました。奥に見える解体中のビルは「パソナ八重洲ビルディング」。
車1台がようやく通れるぐらいのかなり細い区道です。
区道533号(廃道前)を行く(2017年12月31日)
旧中央区立城東小学校跡地と区道432号(左)・区道533号(右)
A-2街区 南側より
区道533号と八重洲通りの間に建つビル
解体前のA-2街区にあたる場所。1枚目左端に移る「ヤンマー東京ビル」、2枚目右端の「新生銀行東京支店」を除いてすべて解体されます。
旧ヤマト運輸 八重洲通りセンター
撮影日2日前に営業終了となった集配センター。
A-1街区 南東側より(2017年12月31日)
あおぎり通り(左)・柳通り(右)
交差点の向こう側一帯がA-1街区となるエリアです。
旧オンキヨー八重洲ビル
オンキヨーの東京オフィスと、2014年7月2日にオープンしたショールーム「Gibson Brands Showroom TOKYO」がありました。再開発に伴い、2017年12月17日に閉館。
移転先は元々企画・開発・設計部門のあった両国だそうで、ショールーム機能については公式アナウンスがあるまで未定とのこと。
柳通り(左)・区道536号(右)
新ビルは、区道536号を廃道とした上で、両側の敷地を集約して建設されます。
区道536号
土地の高度利用を図るため、区画を集約化する上で大きな支障となる道路を、比較的スピーディーに廃止できるのは、さすが東京の行政力といえるでしょうか。
柳通り
通りの右側がA-1街区となるエリア。解体対象となる建物の多さが分かります。
八重洲名古屋ビル
1988年に完成し、名古屋銀行東京支店・東京事務所の入っていたビルでした。再開発による解体の対象となり、支店は日本橋に移転となりました。
周囲には名古屋では見慣れない中堅企業のビルが多い中、建物自体もあまり古さは感じられず、親近感の沸くビルでした。笑
解体工事始まる(2018年4月30日)
A-1街区予定地に残る「ダイヤ八重洲口ビル」「住友生命八重洲ビル」「住友信託銀行八重洲ビル」の解体工事がいよいよ始まりました。
区道533号
廃道となった区道。この日はガス管工事のため、奥のゲートが空いていましたが、普段は閉鎖されており、車・歩行者の通り抜けは一切できません。ただし、手前のスーパーホテルの裏口までは立ち入れるようです。
柳通り(左)・区道533号(右)
「スーパーホテルLohas東京駅八重洲中央口」のある交差点。スーパーホテルは再開発対象外のため、引き続き当地に残ります。
柳通り沿道でも解体工事が本格化し、歩道も狭くなっています。
廃道となり封鎖された区道536号(左)
八重洲名古屋ビルや、その手前に並んでいた複数のビルもまとめて一気に解体が始まりました。
A-1街区 建築計画のお知らせ
この標識を見ると、いよいよ大型プロジェクトが始まるんだなという実感が沸いてきます。
A-1街区 南東側より
オンキヨービルも含め、個別のビルを同時に解体しています。まるで1つの大型ビルの解体現場のよう。
八重洲口(グランルーフ)より
完成後の景観が一番楽しみなのは、このグランルーフからの眺めです。
外堀通りより
全体を解体用パネルに覆われた旧住友信託銀行八重洲ビル
奥のビルも含め一斉に解体が始まり、なかなか圧巻の光景。
八重洲口(グランルーフ)より
両ビルの間に、廃道となった区道536号が確認できます。
奥では重機が入れるよう鉄板も敷かれ、物々しい雰囲気に。
外堀通り
こちらも解体工事が本格化し、歩道幅がやや狭まっている。
八重洲地下街へのアクセスは当分可
解体工事の始まった旧住友生命八重洲ビルですが、撮影時に地下街への動線は維持されていました。
地下街以外への出入口という出入口はすべて封鎖。
廃道となり封鎖された区道533号
前述のとおり、区道533号は、スーパーホテルの裏手までは進入可能のようです。
ヤンマー東京ビル(B街区)も解体着手!
単独建替えの方針が決まった「ヤンマー東京ビル」も、解体工事が始まろうとしています。
入居していたヤンマー東京事務所は、一時的に秋葉原に移転となり、建替え後当地にて再び業務を再開するようです。
八重洲通りより
ヤンマー東京ビルの地下には、2012年9月に初の大型駅に直結したビルへの出店として「H&M東京駅店」が開業しましたが、こちらも営業を終えています。
A-2街区 建築計画のお知らせ
同じ八重洲通り沿いに掲示されていた標識。B街区の詳細についての掲示はありませんでした。
B-2街区 北側(2018年4月30日)
茶色い「新生銀行東京支店」と、右端の「ヤンマー東京ビル」に挟まれた建物群が、A-2街区です。
再開発対象外の「新生銀行東京支店」
左奥には、同じく対象外の「スーパーホテルLohas東京駅八重洲口」が見えます。
八重洲口駅前広場より
ヤンマー東京ビル
八重洲口の高層化はこれで終わらない!
八重洲一丁目東地区市街地再開発事業予定地
今回の再開発地区から八重洲通りを挟んですぐ北側の複数区画でも、さらなる大型プロジェクトが計画されています。都市計画(素案)の概要によれば、地上54階・高さ250mと地上11階・高さ45mの2棟のビルが建設されることになっています。着工は2020年10月、竣工は2024年3月の予定です。今回のA-1街区に建設される超高層ビルも含め、少なくとも八重洲口にはこれから250m級のツインのビルが建つことになります。