2027年度のリニア中央新幹線の開業に向け、名古屋市は栄地区一帯を国際競争力のある魅力と活気にあふれた新たな交流空間へと再生することを目的に、久屋大通公園の再整備を検討しています。現在の大通公園は1976年(昭和51年)から南北約1.7kmにわたって集中的に整備が進められてきました。「100メートル道路」の一角をなす同公園は、長らく名古屋のシンボルとして親しまれてきましたが、公園の老朽化が進んでいることや、名駅地区で相次ぐ大型再開発により栄地区の求心力低下が懸念されていることから、久屋大通一帯のあり方が根本的に見直されることとなりました。
久屋大通公園の現状は─
再開発に向け、2016年7月29日に行われた有識者懇談会にて「久屋大通のあり方」(素案)が発表されましたが、その中で現在の公園が抱えている現状について、問題点がいくつか挙げられました。(2016年8月1日 建通新聞・名古屋市の検討調査成果報告より)
●施設の老朽化により、現在のニーズに対応できていない。
●公園を挟む複数車線の沿道(久屋大通)が歩行者の東西交通を分断している。
●過剰な植栽が閉鎖的なイメージにつながっている。
●公園の活用による収益確保のインセンティブがない。
●公園一帯の再整備には、市民・地域・NPO、民間企業、名古屋市などが協力し、公共空間の多様な利活用を推進する仕組みづくりが必要。
これを踏まえ、市が事前に行った久屋大通公園再生の検討・調査の成果として、まずハード面では下記の方針が掲げられました。
久屋大通再生のための官民連携手法検討調査(国交省公式サイト)より
1.空間活用の一体化……園内を横断する一部の道路を新たに公園化、久屋大通の車道縮小・再配分による公園空間の拡大、回遊しやすい広場・園路の整備。
→公園の南北エリアおよび沿道と公園との物理的・心理的距離を縮める。
久屋大通の再生(北・テレビ塔エリア)に向けた整備の考え方(名古屋市公式サイト)より
2.地上・地下の連続性向上……公園と地下空間をつなぐエスカレーター・エレベータの新設(昇降機能が集約された拠点を園内に整備する)
3.魅力的な集客施設の導入……テレビ塔のシンボル性を活かした、文化・交流・飲食・物販などの収益施設で魅力向上を図る。
4.使いやすいイベント空間や憩いの空間の整備……公園内の駐車場などに、新たにイベントなどに活用できる交流広場や憩いの広場を整備する。
5.良好な樹木環境の整備……明るく見通しのよい景観の創出。
6.ユニバーサルデザインの導入……園路の高低差緩和・エレベーターなど昇降設備の増設で、高齢者や子供連れにも優しい空間づくり。
7.広域避難場所としての防災機能の強化……広場を避難時のオープンスペースとしても活用できるよう改善。避難者の支援に必要な設備を設置。
全国初のPark-PFI制度(予定)を活用へ!
久屋大通公園は、これまで名古屋市が直接的に管理・運営を行ってきましたが、従来の「都市公園法」に基づき、公園内に設置が可能な施設の用途・規模が厳しく制限されていました。また、同法では公園内への収益施設(カフェや売店など)の設置が認められる期間が最長10年と短く、収益施設の設置を希望する民間事業者に対し、各自治体が適正を判断した上で設置許可を与えていたりと、実際のニーズと同法が合致していない実情もありました。
「Park-PFI制度」とは
そこで今回の再開発計画では、民間事業者の資金やノウハウを活用し、柔軟な発想で公園再生の可能性を広げるため、都市公園法の改正により国が新たに創設する「Park-PFI制度」(2017年度予定)を全国に先駆けて活用することとなりました。この制度では、公園内に設置できる収益施設の用途や建ぺい率を緩和するほか、設置許可期間を20年に延長、収益施設の設置・運営を行う民間事業者の選定を公募型の入札に切り替えることで、公平性を保つことなどが盛り込まれています。また、これらの規制を緩和する代わりに民間事業者に広場などの公共施設も併せて建設してもらい、国が公共施設の建設資金の半分を無利子で融資する仕組みなども整えます。公園の運営は民間事業者が中心となって行うことで、持続的な魅力あるパークマネジメント体制を整えます。
※PFI…公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方。(日本PFI・PPP協会HPより)
久屋大通公園を3つのイメージエリアに
栄地区グランドビジョン(名古屋市公式サイト)より
再開発にあたっては、南北約1.7kmの区間を「北エリア」(外堀通り~桜通り)、「テレビ塔エリア」(桜通り~錦通り)、「南エリア」(錦通り~若宮大通)の3つのエリアに区分けします。具体的な着工時期はまだ発表されていませんが、「北」「テレビ塔」の両エリアから先行して再開発に着手するため、2017年度中に両エリアの民間事業者を公募するとしています。
既存の関係機関との連携も強化へ―
名古屋市と久屋大通公園の管理者である(株)セントラルパーク、名古屋テレビ塔(株)は、久屋大通公園の再開発に向けて連携することで、2017年3月30日に基本合意を締結しました。セントラルパークとは「地上と地下の連続性の強化」、名古屋テレビ塔とは「塔のシンボル性を強化した都心にふさわしい魅力的な空間づくり」での連携を掲げています。それぞれが新たに公募する民間事業者に協力しながら、整備体制を構築していく予定です。
このほか、同日開かれた”久屋大通北地区連携準備会合”には、名古屋市、セントラルパーク、名古屋テレビ塔のほか、地下鉄駅周辺の地下街を管理する(株)名古屋交通開発機構、名鉄、オアシス21の運営・管理を行う栄公園振興(株)が参加し、老朽化の進む久屋大通公園の再生に向けた意見交換が行われるなど、躍進を続ける名駅地区に対抗すべく、各関係機関に一体感が生まれてきています。
テレビ塔エリア周辺はどう変わる?
「テレビ塔エリア」再整備基本計画の素案(国交省公式サイト)より
あくまで素案段階での計画のため、今後変更される可能性がありますが、それぞれ細かく見ていきたいと思います。
芝生広場の整備
芝生広場の整備予定地(素案より)
テレビ塔南側の公園敷地、約3,600平方メートルにわたって「芝生広場」が整備される計画となっています。公園内にはせせらぎ(さかえ川)が流れていますが、再整備に伴い廃止となる予定です。川の廃止については建通新聞にも記事が出ていました。(掲載日失念)
【以下抜粋】
多目的かつ開放的な芝生広場を設けることで、都心の中心でゆったりくつろげる贅沢な空間を確保する。
廃止予定のさかえ川
1978年(昭和54年)に完成した人工のせせらぎです。亀は一匹いましたが、魚は泳いでなさそうです。この付近には現状売店がありませんが、新たに整備される芝生広場の一角に売店も設置される計画です。
過去にはイベントなどで活用されたこともあるようですが、普段から川で遊んでいる人はあまり見かけません。
廃止はちょっと勿体無い気もしますが、公園の東西の幅があまり広くないので、普通のせせらぎでスペースを取られるくらいであれば、思い切って一面芝生を敷き詰め、くつろげる場所を増やしたほうがいいのかもしれません。
テレビ塔の北側には噴水があります。
テレビ塔の今後は??
タワースクエア(テレビ塔下)
テレビ塔は2006年6月14日に大規模なリニューアルが行われ、塔のフロア内部も現代風に大きく刷新されました。塔の真下は「タワースクエア」としてカフェや夏季限定のビアガーデン、イベントスペースなどが整備されています。また、2012年のデジタル放送への完全移行による塔内放送機器の撤去により、ウェディング及び各種パーティー、イベントを開催できる空間、「ザ・パーク・バンケット」が4階にオープン。現在も一日を通して賑わっています。おそらくこの「タワースクエア」は久屋大通の再開発後もこのまま存続すると思いますが、テレビ塔は今後のマネジメント面で公園再開発に歩調を合わせていくことになると思われます。
エシカルペネロープ(手前)・Amelie Cafe 名古屋TV塔店(アメリカフェ・右奥)
手前の「エシカルペネロープ」はテレビ塔グッズも扱うセレクトショップです。2012年の大規模リニューアル時に出店しました。右奥は猿カフェに代わって2017年4月5日にオープンしたばかりの「アメリカフェ」。矢場町に本店を置くカフェですが、テレビ塔店では名古屋初上陸となる韓国発祥のパフェ「ボンボン」も販売しており、大変賑わっています。
【外部リンク】韓国で大人気のパフェ【ストロベリーボンボン】を『Amelie Cafe(アメリカフェ)名古屋テレビ塔店』で食べられる!(名古屋近辺ブログ8様)
Amelie Cafe 名古屋TV塔店
日曜の夕方4時すぎですが、この人気っぷりです。
THE BROOKLYN CAFE テレビ塔店
2016年4月27日にオープンした、ニューヨークスタイルのダイニングカフェです。地ビール「ブルックリン・ラガー」や多彩な肉料理を楽しめます。
【外部リンク】名古屋 栄・テレビ塔に新たなNYスタイルの ダイニングカフェ『THE BROOKLYN CAFE テレビ塔店』を 4月27日オープン!(@Press公式サイトより)
久屋大通からみた THE BROOKLYN CAFE テレビ塔店。クスノキの大木とテレビ塔のアーチ、カフェテラスのコラボはなかなか面白い構図です。
大規模集客施設の建設
集客施設の建設予定地(素案より)
テレビ塔のすぐ北側に位置する、観光バス駐車場や花時計のある広場一帯に、新たな集客施設を整備します。素案では敷地面積は約2,000平方メートルとなっており、公園内の施設としてはかなり大規模な計画です。交流拠点や物販店、飲食店など、さまざまな機能が想定されます。テレビ塔エリアでの収益施設の建築面積は、2,600平方メートルが上限となっているようです。(2017年3月31日 建通新聞より)
【以下抜粋】
栄地区のシンボルであるテレビ塔近傍に立地していることを最大限に活かした飲食施設などの集客施設を民間事業者の提案で設置することにより、そこでしか味わえないプレミアム感のある空間づくりを目指す。 (位置・施設規模ともに、民間事業者の提案を求める。)
バリアフリー未対応の現状
観光バス駐車場付近にも、セントラルパーク地下街への地下階段がありますが、エレベーターは設置されておらず、案内もわかりにくくなっています。
集客施設の建設予定地(素案より)
セントラルブリッジから見た集客施設の予定地です。このあたりは土休日もあまり人がおらず、南にあるテレビ塔の賑わいが途切れてしまっています。素案によると、花時計の手前側にエレベータ(※)が新設される計画です。
※現段階でセントラルブリッジ用なのか地下連絡用なのかは不明です。
イベント兼用オープンカフェの新設
オープンカフェ整備予定地(右・素案より)
テレビ塔のすぐ北側、前述の集客施設との間のスペースに、イベント兼用オープンカフェスペースを整備します。敷地面積は1,600平方メートルで、タワースクエアより若干広いスペースです。
【以下抜粋】
可動式のテーブルやベンチを設置することにより、周辺のイベントに対応可能なフレキシブルな空間を整備する。(※位置については、民間事業者の提案を求める。)
オープンカフェ整備予定地(素案より)
現在は広場となっていますが、一部はホームレスの居住スペースとなってしまっています。
現状はコンクリートの人工物が多く、人が立ち入れるスペースはそれほど広くありません。新たに整備される予定のオープンカフェは、奥に見えるバス駐車場に建設予定の「集客施設」との相乗効果も期待されます。
久屋大通の車道縮小→公園をもっと近くに
現在の久屋大通は北行き・南行きでそれぞれ3車線ずつありますが、歩道と公園の間隔が広く、公園にアクセスしにくいデメリットがあります。計画では久屋大通の車線数を減らすほか、公園側の植樹帯も段差をなくして公園内外の心理的・物理的隔たりを軽減する方針です。また、車道を直線ではなく蛇行させることも検討されています。
もちの木広場の重要性
イベント時以外は閑散…
オアシス21にも程近い、久屋大通のど真ん中に広がる大規模なサンクンガーデンは、今でこそ珍しくなくなったものの、当時としてはかなり先進的な整備手法だったと思います。この「もちの木広場」は野外イベントの開催時にステージとして使用されることもありますが、普段の地下駅・地下街へのアクセスルートとしてはほとんど利用されていないと思います。もっとも、この広場は地上から名鉄栄町駅の改札に一番近い場所でありながら、駅への案内がどこにもありません。エスカレーターもエレベーターも設置されていません。しかし前述の市が発表した「久屋大通の再生(北・テレビ塔エリア)に向けた整備の考え方」では、この広場を昇降機能の集約拠点として活用するようにも見えるので、今後の大幅な改良に期待したいと思います。
【以下素案より抜粋】
もちの木広場を、イベントが開催しやすい空間へと改修する。また近接して、ミニコンサートなどの開催が可能な空間も整備する。
名鉄栄町駅改札付近
こんなに近い場所に改札があるのですが、普段ここから出入りする人をあまり見かけません。固い扉で遮断されていますが、誰でも自由に出入りができます。バリアフリーにも対応しておらず、使い勝手の悪い現状ではやむを得ないところですが、地上からはアップダウンの多い地下街を経由しなくていいので、実は地下鉄栄駅よりも圧倒的に地上からのアクセス性に優れています。
広場は30年近く手が加わわっていないのが分かります。 扉の向こうは、改札と並んでセントラルパーク地下街の正面入口にもあたります。広場の利用実態を見ると名鉄栄町駅の利用客は金山駅に次ぐ名鉄全駅中3位でありながら、地下鉄との乗り換え客や、地下改札からそのまま地下街を経由する人がほとんどであることを忠実に表しています。
ここから人を呼び込めれば、セントラルパークの買い物客や久屋大通公園の利用者が互いに増えるような気がしますが、市が管理している「公園」の一部なので、市が動かない限り名鉄も地下街も手出しできませんでした。今回の再開発がまさにラストチャンスです。
地下街入口が多すぎる気も…
長らく名古屋のシンボルとされてきた久屋大通公園も、時代の経過とともに様々な改善点が見えてきました。リニア開業までに公園全体が再開発されることで、中日ビルなど周辺で検討されている再開発にも良い刺激となり、相互作用で栄地区全体が大きく変貌する可能性を秘めています。次は「北エリア」「南エリア」を取り上げたいと思います。
【外部リンク】都市の魅力を高める公園経営 ~久屋大通公園に焦点をあてて~(2013年名古屋都市センター研究報告書)
【参考】栄地区グランドビジョン ~さかえ魅力向上方針~(2014年5月名古屋市策定 名古屋市公式サイト)
【参考】久屋大通(北・テレビ塔エリア)事業計画検討調査・基本計画(素案)(国交省公式サイト)
【参考】久屋大通の再生(北エリア・テレビ塔エリア)に向けた整備の考え方(2014年10月 名古屋市公式サイト)
【参考】【先-12】 久屋大通再生のための官民連携手法検討調査(2014年名古屋市実施 国交省公式サイト)
【参考】国交省/都市公園にぎわい創出で民間活用/収益施設設置に入札制度、法改正検討へ [2016年9月9日1面](日刊建設工業新聞公式サイト)
【参考】民間資金で収益施設整備 都市公園法改正も[2016年9月7日](建通新聞)
【参考】都市公園の再整備に民間活力 カフェなどの収益施設を20年間設置可能に[2017年1月31日](日経BP社)
※2017年4月23日(一部4月30日)撮影。